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名古屋の弁理士がスタートアップ・ベンチャーの知財戦略を解説(freee株式会社編)

 地元名古屋でスタートアップの機運を高めようと、奮闘している弁理士の佐藤です。スタートアップの創業者の方とお話していると、皆さん知的財産についてよく勉強されており、その効果や怖さみたいなものは理解されている方が多いです。

 しかし、実際に「知財を使ってどのようにビジネスを上手く進めるのか」という点についてはアイデアをお持ちでないことが多いように思います。もちろん、ビジネスの方向やビジネスの種類によって知財の関り方は大きく異なり、一概にどのように知財を活用すればビジネスが有利になるかということを語ることは出来ません。

 そこで、これまでに成功しているスタートアップ・ベンチャー企業の知財戦略を公開情報から読み解くことで類似の業態の知財戦略に触れていただくべく、この弁理士による知財戦略を解説シリーズを始めてみたいと思います。

freee株式会社の選定理由

 最初に知財戦略をご紹介するのは、freee株式会社さんです。最初にfreee株式会社さんを選定させていただいた理由は、単純です。弊社の会計ソフトとしてfreeeさんを利用させて頂いているからです。また、会社の設立登記でも会社設立freeeを使わせて頂きました。とても使いやすくSaaSの雄と言えます。

freee株式会社の基本情報

名称 freee株式会社
設立 2012年7月
識別番号(特許庁付与) 513056101
特許出願件数 10件 (拒絶確定:4件、係属中:3件)
特許権保有数 3件
商標出願件数 17件(拒絶確定:1件、係属中:0件)
商標権保有数 16件

※2019年6月6日現在 

 freee株式会社は上記のように、特許出願だけでなく商標出願もしっかりと行っていることが分かります。

freee株式会社の特許戦略

 最初の特許出願(特願2013-55252)は、設立後約8カ月後の2013年3月18日になされています。その後に優先権を利用したPCT出願を行っており、日本が自己指定されているため公開されることなく取り下げられています。一方で、その出願を分割した出願(特願2013-216457)が特許として登録されています(特許第5503795号)。

 この特許出願の内容は、いわゆる自動仕訳に関する発明です。出願時は、取引内容のキーワードを対応テーブルを参照して自動的に仕訳るという発明でした。特許庁から進歩性が否定され、最終的には複数のキーワードを優先付けして優先順位の最も高いキーワードにより対応テーブルを参照して仕訳を行うという内容に補正して登録されています。この出願が自動仕訳のキモとなる発明であり、この技術を応用して作られているのが会計フリーという基幹サービスであると言えます。

 特許第5936284号ではキーワードに対応付けられた勘定科目の出現頻度から自動仕訳を行う発明が特許として認められています。

 また、人事労務フリーというサービスについても特許第6261134号にて、労務担当者が複数の従業員の扶養者数を含む情報に基づいて該当月の給与計算結果をクリックまたはタップで確定させる、という発明を特許権として保護しています。

 上記のように、freee株式会社は会計・人事労務というキモのサービスについてしっかりと特許権を取得して独自の強みを保護していると言えます。

 一方で、特許出願を外国に積極的に出願するようなことはしていません(僅かに韓国に出願されているものもあります)。これは、税務というサービスが日本特有のものという事情があるのかもしれません。少なくとも、当面は海外展開をするようなことは考えていないのだと推測されます。

 また、分割出願を上手くつかって特許出願件数を増加させているのも印象てきです。10件の特許出願のうち、実に5件が分割出願を利用して出願されています。自社の戦略や他社の実施状況を横目に分割出願により権利を獲得しようとする戦略が見て取れます。

 さらに、早期審査の請求も10件中5件で行われています。早期審査の請求を行うことにより、素早く特許成立の可否を知ることができるためスタートアップには有効な戦略であると考えられます。

freee株式会社の商標戦略

 特許出願とほぼ同時期である2013年3月に2つの商標出願がなされています。一つは「freee」という社名であり、もう一つは「会計フリー」という提供しているサービスも名称です。一方で、現在提供しているサービス名称である「人事労務フリー」や「会社設立フリー」という名称については出願していません。本来であれば、事業の柱にしている3つのサービス名称については全て出願すべきであると考えます(未出願の理由は不明)

 また、全17出願のうち図形商標の出願は「燕がfreeeの軌跡を飛ぶ」というようなイメージのfreee株式会社のロゴが一つだけです。想像ですが、実際にサービスに使うロゴを1つに統一することでロゴのブランド力を強化しているのだと思われます。「AI月次監査」や「AI監査」といった税理士事務所向けのサービス商標も登録しており、提供しているサービスについてしっかりと商標を取得しています。(なおさら、「人事労務フリー」「会社設立フリー」を出願していない理由が分からないです。有名になった「フリー」を含む語はもう出さなくていいという判断なのかもしれません。)

総括

 2019年中に上場するという話もあるスタートアップ企業であるfreee株式会社の知財戦略について解説させていただきました。これから起業される方がどの程度・どのタイミングで・どのような知財権を取得するべきかご参考になれば幸いです。

※上記は公開情報を用いた個人的な推測であり、掲載企業の実際の知財戦略とかけ離れている場合がございます。

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