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名古屋の弁理士がスタートアップ・ベンチャーの知財戦略を解説第2回(株式会社マネーフォワード編)

 地元名古屋でスタートアップの機運を高めようと、奮闘している弁理士の佐藤です。スタートアップの創業者の方とお話していると、皆さん知的財産についてよく勉強されており、その効果や怖さみたいなものは理解されている方が多いです。

 しかし、実際に「知財を使ってどのようにビジネスを上手く進めるのか」という点についてはアイデアをお持ちでないことが多いように思います。もちろん、ビジネスの方向やビジネスの種類によって知財の関り方は大きく異なり、一概にどのように知財を活用すればビジネスが有利になるかということを語ることは出来ません。

 そこで、これまでに成功しているスタートアップ・ベンチャー企業の知財戦略を公開情報から読み解くことで類似の業態の知財戦略に触れていただくべく、この弁理士による知財戦略を解説シリーズを始めてみたいと思います。今回は第2回目です。

株式会社マネーフォワードの選定理由

 2回目に知財戦略をご紹介するのは、株式会社マネーフォワードさんです。2回目の企業として株式会社マネーフォワードさんを選定させていただいた理由は、第1回目に紹介した株式会社freeeさんと同種のサービスを展開している企業だからです。前回の記事と今回の記事を比べることによって両者の知財戦略の違いが見えてきたら面白いと思っています。

株式会社マネーフォワードの基本情報

名称 株式会社マネーフォワード
設立 2012年5月
識別番号(特許庁付与) 513040384
特許出願件数 7件 (拒絶確定:0件、係属中:2件)
特許権保有数 5件
商標出願件数 42件(拒絶確定:6件、係属中:12件)
商標権保有数 24件

※2019年6月13日現在 

 株式会社マネーフォワードは上記のように、特許出願だけでなく商標出願もしっかりと行っていることが分かります。また、保有している知的財産権の数は同業のfreee株式会社よりも多いことが分かります(freee: 特許3件、商標16件)。

株式会社マネーフォワードの特許戦略

 最初の特許出願(特願2015-26999)は、設立後約3年後の2015年2月13日になされています。freee株式会社が最初の特許出願を設立後約8カ月後にしていることを考えると、少しイミングとしては遅いような気がします。

 この特許出願の内容は、いわゆるアカウントアグリゲーションシステムに関する発明です。マネーフォワードシステム上に電子証明書がログインに必要な銀行サーバから取得すべき情報を指示&アップロードし、別の端末からもアップロードされた情報にアクセスすることが出来る点、を特許として保護しています。また、その後の出願(特願2016-219948)でも、銀行等から取得したデータを基にユーザに連携すべきアカウント情報(クレジットカード等)を推薦する機能について特許で保護しています。これらの出願からマネーフォワードは複数の金融機関やクレジット情報を集合させる点を事業の柱にしていくという点を重視して技術開発を行っていることが確認できます。尚、上記2つの特許出願はそれぞれ、特許第6366037号, 6389222号として成立しています。

 また、ネーフォワードのクラウド会計サービスは、2013年末から開始しているのですが会計サービスに関する特許出願はサービス開始前にはされていません。一方で、株式会社freeeは自動仕訳といった点に力をいれて開発を行っており、帳簿作成の自動化に対する特許の出願をしっかりと行っていました。推測ですが、マネーフォワードのクラウド会計システムにも特許化すべき技術は多くあったと考えられます。設立当初は知財に対する意識が低かったのかもしれません。このあたりの差によって、自動会計関連特許でfreeeがマネーフォワードに対して訴訟を起こしたのかなと思います(結果は非侵害)。両者の自動会計ソフトのリリースは非常に近い日だったため、マネーフォワードも自社のシステムについてしっかりと特許を出しておけばトラブル発生を事前に防止したり、クロスライセンス等により水面下で解決も図れたように思います。

 その後、2017年に自動会計に関する特許出願を行い、特許が認められています(特許第6511477号)。2016年に訴訟を提起された後に急いで出したような印象を持ちます。そして、自社が公開した情報等により何度も拒絶され拒絶査定不服審判により最終的に登録となっています。このあたりは早く出願しておけばよかったのにと感じるところです。

 また、マネーフォワードの知財戦略として特徴的なのは三井住友銀行との共同出願で特許権を取得しているところです(特許第6293329号)。特許の内容は、企業間の見積書や請求書情報と銀行振り込み情報とを紐付けるというものです。売掛金や未完了の取引の消込を行うのをさらに便利にしていこうというものと考えられます(現状だと、金額を比較して消込の予測することしかできないため)。

 上記のように、株式会社マネーフォワードは自動会計の特許という点では少し出遅れたものの金融連携という点で大きな強みを発揮していると言えます。

 一方で、freee株式会社同様に特許出願を外国に積極的に出願するようなことはしていません。これは、金融機関の連携が必要であり、サービスが日本特有のものという事情があるのかもしれません。少なくとも、当面は海外展開をするようなことは考えていないのだと推測されます。

 早期審査に関してはの請求も7件中2件で行われています。freeeほと積極的に早期審査は請求していませんが早期審査の請求を行うことにより、素早く特許成立の可否を知ることができるためスタートアップには有効な戦略であると考えられます。

株式会社マネーフォワードの商標戦略

 商標出願については、2013年2月にマネーフォワードという名前とロゴについて商標出願がなされています。2012年12月にマネーブックという名前からマネーフォワードに商号変更しているようですので、変更後すぐに商標出願もしていると言えます(特許もこの際に検討すればよかったのにと個人的には考えます)。マネーフォワードのHPの提供サービス一覧を見ると下記のようなサービスが現在提供されています。それぞれのサービスと商標出願有無を以下にまとめます。

サービス名

商標出願有無

(〇:出願 △:保護 ✕:未出願)

Money Forward Me

〇(係属中)

Money Plus

Sira Tama

mirai talk

Money forward Mall

〇(係属中)

tock pop

〇(係属中)

Money Forward クラウド

(Money forward クラウド会計は係属中)

STREAMED

〇(関連会社)

Manageboard

〇(関連会社)

MF KESSAI

〇(子会社)

Money Forward BizAccel

 上記のうち、Money Forwardが付くサービスについてはそのものが出願されていなくても、Money Forward自体が商標登録されているため、一応の保護があるとして△としました。

 実施しているサービスは多岐にわたりますが、しっかりと商標出願を行っています。出願の内、拒絶確定したのは、「クラウド給与」「クラウド経費」といった「クラウド○○(○○は会計に関する一般用語)」という商標です。これらの出願意図は、特許庁に誰も商標登録できないよね?と確認の意味で出願したのではないかと推測します。実際に特許庁は3条や4条1項16号で拒絶しています。

 また、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」や「Business Financial Management」といった言葉を登録しています。標語的なところまで登録するくらい、商標への意識は高いと言えます。

総括

 2017年に上場した株式会社マネーフォワードの知財戦略について解説させていただきました。これから起業される方がどの程度・どのタイミングで・どのような知財権を取得するべきかご参考になれば幸いです。

※上記は公開情報を用いた個人的な推測であり、掲載企業の実際の知財戦略とかけ離れている場合がございます。

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