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著作権とオンライン授業

大学(教育機関)のオンライン授業と著作権

 新型コロナウイルスの影響で、大学の多くが前期はオンラインで授業を行うことを検討しているようです。また、中学校や高校でも、休校期間中にオンライン授業の実施を検討しているという話を聞きました。

 友人の大学の教員も、慣れないオンライン授業のために、PCの環境構築や資料の準備等急ピッチで進めているとのことでした。その友人から、オンライン授業に関する著作権に関して相談を受けました。4月28日に施行される著作権法の改正も絡み、オンライン授業の準備で現場が混乱しているとのことでしたので、オンライン授業に関する改正前後の著作権にポイントを絞り本ブログにて分かりやすく紹介したいと思います。

著作権とは

 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものに関する権利のことです(著作権法2条1項1号)

 ⇒授業で関連する例でいうと、書籍、音楽、映像は著作権で保護されています

 著作権で保護されているものは、自由に利用(コピー、映写、配信)することができない、というのが簡単な説明になります。しかし、これには例外規定があります。営利を目的としない教育の現場では、著作権で保護されているものを一定の要件下(詳細は割愛します)において無許諾・無償で利用することが出来ます(著作権法35条)

オンライン授業で利用できる範囲@現行法(~4月27日)

 オンライン授業において、現行法の下で可能なのは、「教室で学生に授業を行いつつ、遠く離れた場所にリアルタイムで中継(インターネット配信)をすること」です。

 このような形態であれば、対面の授業で行っているのと同様の範囲で著作物を利用しつつオンライン授業を行うことが可能です(普段通りの授業内容でよいかと思います)。一方で、

 ・自宅からの授業の配信(対面で授業を受けている学生がいない)

 ・オンデマンド(リアルタイムではない)で録画した授業の配信

 場合は、授業目的であっても、著作権者の許諾(有償)が必要でした。これでは、不便だということで、2018年に著作権の改正が閣議決定され施行を待っている段階でした。

 すなわち、今回の著作権法の改正は、新型コロナウイルスの対策として行われる改正ではなく、2018年に想定したいたオンライン授業の利便性向上に関する改正です。※新型コロナウイルスの影響で、施行が4月28日に急遽決定

オンライン授業で利用できる範囲@改正法(4月28日~)

 改正法により、オンライン授業で著作物を利用しやすくなります。具体的には、これまで著作権者の許諾(有償)が必要であった、

・自宅からの授業の配信(対面で授業を受けている学生がいない)

・オンデマンド(リアルタイムではない)で録画した授業の配信

について、著作権者の許諾が不要となります。すなわち、本改正では、著作権者の許諾が必要であった一部のオンライン授業の形式について、著作権者の許諾不要で(無償になったわけではない)著作物を利用することが出来るようになった、ということです。

 報道では、「自由利用可・無償化」といった雰囲気が出ていますが、無償化という点は改正法の内容としては誤解です。今回の改正法は、あくまで著作者の許諾が必要であった一部のオンライン授業の形式が許諾不要になったというのが正しい理解です。そして、改正に合わせて著作物の利用に対する補償金を集金・分配する、管理団体(一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会:SARTRAS)が指定されました。教育機関としては、都度著作者と契約するのに比べてSARTRASを通すことで手間が減ることになります。報道されている「無償化」については、このSARTRASが今年度については、教育機関から受け取る補償金を無償として政府に認可申請をしているということを伝えているに過ぎません。このような情勢ですので、今年度の運用がどのようになるかはまだ、見えない状況ではありますが、

・自宅からの授業の配信(対面で授業を受けている学生がいない)

・オンデマンド(リアルタイムではない)で録画した授業の配信

を行う場合は、著作権法上は、

SARTRASに所属の教育機関が加盟した場合:許諾不要・無償(今年度のみ。)

SARTRASに所属の教育機関が加盟しない場合:許諾不要・有償(著作者との交渉)

となります。

結論:オンライン授業(自宅配信&オンデマンド)の可否

POINT

~4月27日:著作権者の許諾要&有償

~4月28日:(所属の教育機関がSARTRASに加入している場合)

 著作権者の許諾不要&無償(2020年度)

⇒通常使用している資料(注)を用いて授業のオンライン化が可能(特に対策することなく、これまでの内容を配信すればよい)

~4月28日:(所属の教育機関がSARTRASに加入していない場合)

著作権者の許諾不要&有償

⇒通常とは異なる資料を用いて授業のオンライン化を検討(著作者との交渉が必要なため)

 教員の皆さまは上記著作権法の改正の内容を踏まえ、オンライン授業の準備をしていただけたらと思います。

(注)ンラインでも対面でも教育目的で使用する場合の著作権法上の規定については、改正前と同じ「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」となっています。但し、オンデマンドを含む公衆送信の場合に、どのような態様が著作権者の利益を不当に害することとなる場合に該当するのか、については法律には具体的が定められていません。不当に害することとなる可能性が高いとされる例については、ガイドラインに記載されています(リンク)。本ガイドラインでは、検討中の項目や可能性について言及しているだけで、法的に確定しているものではありません。そのため、今後はガイドラインと解釈の異なる学説が出たり議論が絶えないところではあります、最終的には裁判例によって明確になっていくことになります。現時点では、常識に照らし合わせて対応していくしかないと個人的には考えています。また、教室に学生がいる場合に、授業内容を遠隔地にオンラインでリアルタイム配信する場合には、無償であるのに、例えば目の前に学生がいない場合に、授業内容を遠隔地にオンラインでリアルタイム配信する場合には、有償というのは考えてみるとおかしな話です。オンライン授業の流れが一過性ではなくなった場合は、さらに著作権法を改正すべきではないかと考えます。

備考)4月20日時点では、SARTRAS(リンク)の加入申し込みは出来ない状況です。問い合わせをしたところ、加入については、4月28日までに詳細をホームページに掲載するとのことでした。また、著作物の利用と並行して加入をお願いできればと考えている(著作物の利用開始から加入までにタイムラグがあっても問題ないというニュアンス)とのことでした。

※運用等不確定の要素も多いので、最新情報をしっかりとご確認ください。

学生にも知的財産権の知識が求められる

 大学の授業をオンライン化するということは、その授業を利用する学生も著作権法を理解しつつ利用する必要があります。大学で積極的に知的財産権に関する授業を開始するタイミングなのかもしれません。これを機に、学生にも知的財産権に対する授業を行うことをご検討いただければと考えます。

参考:著作権法の改正内容(条文)

(原文に対して、一部太字化および理解を助けるための解説を赤字で追記)

(旧)第三十五条

 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

授業では、公表された著作物を一定の要件下で、コピーすることが出来る

2 公表された著作物については、前項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合には、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

対面で行う授業時には、著作物のコピーを学生に配布、提示(映写含む)することが出来る。また、対面で授業を行っている場合には、その授業をリアルタイムに配信することが出来る。

(新)第三十五条

 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であって公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

授業では、公表された著作物を一定の要件下で、コピーを学生に配布、提示(映写含む)することが出来る。また、その授業を配信(録画配信を含む)することが出来る。

2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

授業を配信する場合は、教育機関は著作権者に補償金を支払う必要がある。

前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程にお いて、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第38条第1項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

但し、授業の配信が、対面で行う授業をリアルタイムに配信している場合は、補償金の支払いは不要とする。(著作権法改正前から、無償であった部分は2項に規定の補償金の支払いが不要であることを明記し、引き続き無償で利用可能としている)

 

 

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