名古屋の弁理士がスタートアップ・ベンチャーの知財戦略を解説第5回(株式会社クラウドワークス編)
地元名古屋でスタートアップの機運を高めようと、奮闘している弁理士の佐藤です。スタートアップの創業者の方とお話していると、皆さん知的財産についてよく勉強されており、その効果や怖さみたいなものは理解されている方が多いです。
しかし、実際に「知財を使ってどのようにビジネスを上手く進めるのか」という点についてはアイデアをお持ちでないことが多いように思います。もちろん、ビジネスの方向やビジネスの種類によって知財の関り方は大きく異なり、一概にどのように知財を活用すればビジネスが有利になるかということを語ることは出来ません。
そこで、これまでに成功しているスタートアップ・ベンチャー企業の知財戦略を公開情報から読み解くことで類似の業態の知財戦略に触れていただくべく、この弁理士による知財戦略を解説シリーズを始めてみたいと思います。今回は第5回目です。
株式会社クラウドワークスの選定理由
5回目に知財戦略をご紹介するのは、株式会社クラウドワークスさんです。5回目の企業として株式会社クラウドワークスさんを選定させていただいた理由は、フリーランスとして働く上で重要となるクライアントとフリーランスを繋ぐプラットフォームを運営している企業として、第4回にランサーズ株式会社さんをご紹介させて頂きました(過去記事)。日本でフリーランス向けのプラットフォームを運営する2大企業であるランサーズさんとクラウドワークスさんを比較することで両者の知財戦略の違いが見えてくるのではないかと考えたからです。
自分自身も大手企業を退職し、半ばフリーランスとして働いており、このようなプラットフォームを提供している企業に感謝しています。更に、専門知識が必要な業務と専門家をマッチングすることの重要性は今後も高まり続けると考えています。
株式会社クラウドワークスの基本情報
名称 | 株式会社クラウドワークス |
設立 | 2011年11月 |
識別番号(特許庁付与) | 512328142, 513059261 |
特許出願件数 | 1件 (拒絶確定:0件、係属中:0件) |
特許権保有数 | 1件 |
商標出願件数 | 34件(拒絶確定:9件、係属中:10件) |
商標権保有数 | 15件 |
※2019年8月21日現在
株式会社クラウドワークスは上記のように、商標出願はしっかりと行っていることが分かります。しかしながら、拒絶確定が9件と多くなっていることが気になります。また、係属中の案件についても、10件中9件が拒絶査定となっています(審判可能期間のため、拒絶確定はしていません)。一方で特許出願は1件に留まっていますが、特許権が成立しています。
株式会社クラウドワークスの特許戦略
取得している特許は、下記のような内容です。
「時間単価で依頼した仕事の作業進捗を、作業者が認知しにくいタイミングで記録する」
業務を外注する際に、時間単価で依頼した際に依頼者が受注者がしっかりと業務を行ってくれているのかを確認するための技術です。出願日も2012年12月と会社設立から1年程度で時間単価に関するビジネスモデルを特許で保護しています。
実際に本特許を用いて、CWタイムカードというアプリケーションをリリースしています。クラウドワークスで時間単価制で業務を受注する場合は、このCWタイムカードにより受注者のスクリーンショットが発注者に送られます。発注側としては、しっかりと業務時間を把握することが出来、また受注者側にとってもなぜそんなに時間がかかった?というような問い合わせを受けることがなくなるため便利なシステムであると考えます(参考: CWタイムカードの説明)。
競合のランサーズ株式会社は、同じ時間単価性でも受注者は作業開始時刻と作業終了時刻を申請するのみとなっています。おそらく、クラウドワークスの上述の特許権の存在を知っており同システムを採用していないのだと考えられます。
このように株式会社クラウドワークスは、特許権を取得することで競合にはないシステムを提供し差別化を図ることが可能となっています。しかし、業務とフリーランスのマッチングの促進に関する技術や、業務のアウトプットに対する評価技術、依頼業務内容を解析し、最適な依頼方法を提案する等で特許出願をもっとすべきであると考えます。特許出願により利便性を高める技術を保護し、一番のプラットフォームになる戦略をとっているかと考えていましたが、ランサーズ株式会社同様にそのような戦略を取っていません。
競合する2社ですので、今後どちらかが特許出願戦略の見直しによりNo.1プラットフォームへと抜け出すきっかけとなるかもしれません。
株式会社クラウドワークスの商標戦略
商標出願については、2010年9月に「Cyta」の出願がありますが、こちらは2018年にコーチ・ユナイテッドから事業譲渡を受けた際に一緒に移転された習い事マッチングサイトに関するものです。そのため、株式会社クラウドワークスの最初の出願は2013年3月の「CrowdWorks」および「クラウドワークス」になります。設立が2011年のため、最初の商標登録出願までのタイムラグがかなり長い印象です。ともに登録となっているため良かったのですが、第三者に商標権を取得されていたら、今頃はCrowdWorksというサービスは現在の地位を築いていない可能性がありました。その後は、継続的に多くの商標登録出願をしています。また、2018年には「CrowdWorks」について9類と42類についても出願をして保護範囲を広げています。
一方で気になるのが、拒絶確定件数(10件)および係属中の拒絶査定件数(9件)の多さです。これらの出願は2017年11月に多くが出願されています。一部の出願の経過を見ると、拒絶理由は指定商品の不備です(カンマでなく、句点を使用。同一指定商品が2回記載。士業でないものが専権業務を指定等々)。また、これらの拒絶理由に応答することなく拒絶確定や拒絶査定となっています。代理人がついていたら当然に防げた拒絶ですが、不思議なことにこれらは自社出願をしています。それまでの商標出願は代理人がいましたが、商標出願は自社でできると考えて、自社で出願したものの特許庁からの拒絶に対する対応が分からず放置しているのでは、と考えてしまいます。
これらから、知財の専門家が社内にいて商標を戦略的に出願しているというわけではなさそうです。今後の事業拡大を見据えてしっかりと知財の専門家と戦略について相談するべきだと考えます。
※上記は公開情報を用いた個人的な推測であり、掲載企業の実際の知財戦略とかけ離れている場合がございます。